泉鏡花 「高野聖」について

先日「怖い絵展」展について書いた記事で『「魔女キルケー」は泉鏡花の「高野聖」に影響を与えた』ってサラっと触れました。

その記事で泉鏡花の「高野聖」について、もう少し書こうかな。って思ったんですが、記事が長くなって疲れたのと、最近読み直したので、別の記事にしようと思ってたのでこの記事で書いてみます。



没後50年以上経っている作家さんなので、青空文庫のラインナップにもありまして、無料で読むことができます。

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高野聖はこんな話

舞台

飛騨(岐阜県北部)の山中が舞台

時代背景

作品では明確に語られていませんが、「高野聖」というキーワードでググったところ、平安末期以降、諸国を旅して高野山への信仰と納骨をすすめるといった、半分行商人のような活動をしていた僧を「高野聖」と呼ぶようです。

以前記事で書いた石童丸物語より後の時代くらい、鎌倉時代あたりでしょうかね。
人魚のミイラと石堂丸の物語について(和歌山)

これはWikipediaからの引用ですが、

織田信長は天正6年(1578年)に畿内の高野聖1383人を捕え殺害している。高野山が信長に敵対する荒木村重の残党を匿ったり足利義昭と通じたりした動きへの報復だったというが、当時は高野聖に成り済まし密偵活動を行う間者もおり、これに手を焼いた末の対処だったともいわれている。
江戸時代になって幕府が統治政策の一環として檀家制度を推進したこともあり、さしもの高野聖も活動が制限され、やがて衰えていった。

という工作員としての活動もあったような記述もあって、興味深いですね。

あらすじ

高野山のお坊さん(宗朝)が旅の道中で知り合った若者に、自分が若い頃に体験した怪奇体験を語るという格好で物語は展開されます。

宗朝は飛騨の山中の茶屋で、若い薬売りに出会います。
この薬売りはネチネチした性格で、下品でとても嫌なヤツでした。

途中で道が分かれていて、「片方は近道だが、危険なので行ってはいけない。」と言われるが、薬売りがそちらの道を選んでしまいました。
仏の道に進む宗朝は、薬売りを見殺しにすることができず、後を追う形で近道を進みます。

道中では恐ろしい蛇に出会い、大量の蛭に襲われ恐ろしい道中をなんとか切り抜けた宗朝は、一軒の家につきました。

そこには、美しい女、肥った白痴の亭主、馬引きの親仁がいました。

美女は傷付き、汚れた宗朝の体を洗い、癒してくれました。
その時、美女もいつの間にか全裸になっていたのですが、猿やコウモリなどの動物にまとわりつかれるという不思議な出来事が起きます。

そのまま家に泊まった宗朝ですが、晩に家の周りで、すごい数の鳥獣が騒ぎ、宗朝は一心不乱に念仏を唱え過ごします。

翌朝、宗朝は言えを出ましたが、美しい女性のことが忘れられませんでした。
修行を辞め、僧侶の身を捨てて、女と暮らそうと考えていたところに、女の家にいた馬の親仁にバッタリ会いました。

そこで馬の親仁は女の秘密を語りました。
女には魔力があって、肉体関係を持った男達を獣に変える妖力がある。といい、
先程は女と関係を持ち、馬に姿を変えられた薬売りを売ってきたというのです。

では昨日家の周りで騒いでいた鳥獣たちも・・・。
それを聞いた宗朝は我にかえり、里に下っていきました。

キルケーの伝説と高野聖の類似点

共通点ですが、
共に容姿が美しい ということ。
共に相手を獣に変える妖力を持つ ということ。
が、挙げられます。

相違点としては、能力発言の手段として、
キルケーは食べ物(飲み物)を差し出して、食べた相手を獣にする。
これに対して、
高野聖の女は肉体関係を持ったものを獣にする。
とあります。

なんとなく、キルケーの能力は男女ともに対象になりそうですが、高野聖の女は男限定っぽいような・・・。
一応軽く調べてみたのですが、日本における同性愛の歴史はかなり古くからあったようで、この高野聖の舞台となっている平安末期か鎌倉以前からもあったのですが、いずれの記事も「男色」についてでした。

「レズビアン」に関してWikipediaからの引用です。

日本におけるレズビアンの歴史は、男性の男色文化などと比べると未解明な部分が多いが、少なくとも江戸時代からは存在したとされる。

これを考えると、高野聖の女のターゲットは男限定と考えてもよさそうです。
まぁあんな過酷な山中を抜けないと、あの家にはつかないから女性が訪れることなんてなかったのかも知れません。

つまり!
高野聖の女とキルケーでは、キルケーの方が強い!

(そんな記事だったかな・・・)




最後に

ちょっと本題から逸れてしまいますが、改めて読んでみると
「肉体関係を持った男を妖術にかける」って設定が、なんかくノ一っぽいですよね?

なんとなく、バジリスクの陽炎とかを思い出しちゃいました。

そして、なんとなく↓が欲しくなりました。笑

山に住む女が妖術使いという設定は、山姥とか鬼婆とか妖怪っぽいですよね。
これも話がそれますが、頼朝光の四天王として有名な坂田公時(足利山の金太郎)の母親が山姥という言い伝えがあるそうです。

次回は本題に戻って、「怖い絵」展の記事の続きを書きます。